「ん〜よしよし。」
にゃあにゃあと仔猫たちがじゃれている。
総司がいない分、のぶ姉が構ってくれている。
猫好きな飼い主はとっても助かる・・・・いや、のぶ姉は猫好きなんてもんじゃない。
猫馬鹿だ。
食い扶持が増えたことなんて、全然気にしていない。
目尻はこれでもかって位、下がりまくっているし。
「なぁ、こいつらって、貰い手ねえのか?」
「なっ・・・・!」
貰い手が無かったから、ずっとここにいるんだろうか。
そう思って、素直に疑問を口にしたら・・・・。
「あんたね!ふざけんじゃないわよ!!!」
のぶ姉がマジ切れしてしまった。
でかい声で怒鳴られて、びっくりした。
なんとなく言ってみただけなのに・・・。
「こぉんな可愛い盛りの仔猫、どっかやっちゃうなんて可哀想だと思わないの!?」
あんたそれでも母親!?と、まるで鬼を見るような目をされた。
「悪いけど、あたしは高給取りよ。猫のご飯くらい屁の河童よ!」
・・・・・のぶ姉の猫馬鹿魂を甘く見てた俺が悪かった。
別に、俺だって、こいつらを手放したい訳じゃない。
「かーにゃ!」
ぽふんと胸に飛び込んでくる。
一人がそうすると、もう一人も同じように飛び込んでくる。
俺も、こいつらが可愛いと思う。
こいつらがどっか行ってしまったら、総司は、きっと悲しむ。
あんなに子供好きで、子育てに夢中になっているのに・・・・。
子供といる時の総司は、ホントに楽しそうだ。
こいつらも、総司が大好きだ。
猫のくせに変わった奴だと思う。
でも、それも嫌いじゃない。
総司は、ちっとも帰ってこない。
帰ってくるってのはおかしいな。
だって、総司は近藤さんの猫だ。
ここでは、預かっていただけ。
寂しいと思う気持ちは、子供達だって同じなのに
俺は2人になぐさめられている。
ちょっと前までは、総司がいないと泣いたりしてたのにな。
今、近藤さんの家には妹が来ているらしい。
だから、忙しくて来れないという。
しょうがねえ。
近藤さんだって暇じゃない。
きっと、一番我侭なのは、子供じゃなくて俺だな。
「そうか〜たまにも困ったもんだなぁ。」
「すみません・・・・。」
夕方まで外に隠れていて、近藤さんが帰って来たところを
見計らって家に入った。
たまは、ちゃんと家に帰ってこれたようで安心した。
見知らぬ土地なのに、ひとりで置いてきてしまったから、ちょっと気になってたんだ。
見つからないようにそっと近藤さんに近付いて
今日あったことと、のぶさんの家に行きたいことをお願いした。
「まぁ、仕方ないな。明日にでも歳んとこ行くか。」
「お願いします。」
「しかし、そんなにモテて羨ましいな。」
羨ましいなんて、そんなことない。
俺は、歳さんだけでいいんだって。
「今日はもう遅いからな。明日まで我慢してくれよ。」
「・・・・・はい。」
眠る頃になると、やっぱりたまは近寄って来た。
俺は寝転がったまま、壁を向いて、じっと身を固くした。
「ねえ、明日どこ行くのよ。」
「・・・・・奥さんとこ。」
「そんなにあたしが嫌なわけ?」
「嫌じゃないよ。」
「じゃあ、どうして?」
「会いたいんだ。」
会いたい。
子供達に、歳さんに。
会って、いつも一緒にいたい。
ただ、それだけなんだ。
「あんたって、ホントにつまんないのね。」
「うん・・・ごめん。」
だから、もう俺のことなんて追いかけないで欲しい。
たまが嫌なんじゃない。
きっと、友達にならなれたと思う。
「でも、そのつまんなさがいいのよね。」
たまの手が、肩にかかる。
情けないことに、びくりと体が震えた。
「いつか、奥さんに振られるといいわ。」
たまの静かな声。
それ以上、たまは触れては来なかった。
気配が遠のく音。
安心したのに、どこかたまの言葉が引っかかって
ずっと離れなかった。
翌朝、俺は近藤さんに連れられて、歳さんのところへ向かった。
たまは、見送りに来なかった。
来て欲しかったんじゃないけれど、昨日のたまの言葉が
ずっと胸の隅に残っていた。
・・・・妙に気になるのは、そのせいだ。
もうすぐ歳さんと子供達に会える。
なのに、思ったよりも気分が良くならない。
変だな、こんなの。
こうしたいって思ってたはずなのに。
なのに、どうしてこんなに気になるんだろう。
歳さんの家に向かう間、ずっとたまのことばかり考えていた。
部屋を出て行ったあと。
出て行くのを待っていたかのように
ちえが話し掛けて来た。
「いいのぉ?たまちゃん。総司行っちゃうよ。」
「いーのよ、あんな奴。」
「随分、興味持ってたじゃない。」
「面白かったけどね、もう許してやることにしたの。」
「ふーん。」
「でも、ちゃあんと呪ってやったから、大丈夫。」
「呪いィ?なにそれ?」
飼い主の声には答えず、あくびをした。
ホントにつまらない男。
だけど、面白かった。
もうちょっとだと思ったけれど、気が変わってしまった。
馬鹿でつまんないけど、いい男だった。
あんな男に一途に想われる相手が、少し羨ましかった。
猫のくせに、変な男。
・・・・・。
・・・・・やっぱり、ちょっともったいなかったかな。
でも、もうどうでも良かった。
それにしても退屈ね、と、またあくびが出た。
いつになったら、ちえは家に戻るのかしら・・・・。
逃げていった男のことなんかすっかり忘れて
懐かしい家のことばかり考えていた。