だだだだだだ。

どたどたどた。


「おい、あんまり暴れるなよ。俺んちはボロアパートだから壁が薄いんだ。」

「すみません!わかってるんですけど・・・・」

「総司が待ってくれればいいだけよ!」

「ちょっと〜ふたりとも、うるさい〜!」


嫌な予感は的中して、俺はずっとたまに追いかけられまくりだ。

出勤する近藤さんの見送りをしなきゃいけないのに

朝からこんな調子だ。

ついてこないで欲しいと言っても。

近付かないで欲しいと言っても。

逆に、たまは面白がって追いかけまわす。

俺は、ちっとも気が休まらない。

誰かどうにかしてくれ・・・・!


「つーかまえたv」

「・・・・・・。」


体力の問題じゃなく、精神的に俺は負けてしまう。

ぐったりとした俺にひっつきながら、たまは嬉しそうだ。


「何でくっつくの・・・」

「だって、総司と仲良くしたいんだもん。」


一旦、愛想尽かしたはずの俺に、また執着するたま。

毛づくろいしながら、べたべたとつっくいてくる。

こんなこと、歳さんに知られたらと思うと、すごく怖い。

信じて、歳さん。

俺には貴方だけなんだ。

心の中で、歳さんに訴える。












「・・・・・っくしゅん!」

「やだ、あんた風邪?」

「いや、そんなんじゃねえよ。」

「そう、ならいいけど。あんた具合悪かったら、すぐ言うのよ?」

「ああ、ありがと。」


出勤前ののぶ姉が、心配そうに言う。

落ち込みは仕事と関係ないようで、頭の中はすっかり仕事モードに切り替わってる。

どんなに嫌な事があっても、仕事に行く飼い主の姿は、頼もしくもあり

ほんの少し、心配にもなる。



のぶ姉を見送った後、二度寝するかと毛布に潜り込むと

もぞもぞと小さな身体が、温もりを求めて、俺のほうへ寝返りをうつ。

随分暖かくなってきたとはいえ、朝はそれなりに冷える。

丸くなってるガキ共が冷えてないか、そっと確かめながら

あどけない寝顔を眺める。

小さな寝息を立てて、よく眠っている。

日に日に、総司に似てくる。

ふたりとも、俺が産んだはずなのに、総司にばかり似ている。

尤も、総司に言わせれば、ふたりの気の強いところは俺にそっくりなんだそうだ。

妙に意固地で頑固なところは、総司にだってあるし、ふたりとも良く似てる。

でも、俺は、そういうところも嫌いじゃねえ。

帰ってくると言って約束してくれたけれど、一日だって離れていれば寂しい。

こいつらだってそうだ。

総司がいない理由を俺に聞く。

だけど、俺は、上手く説明できねえ。

言葉を覚え、自己主張もするようになってきたふたり。

早く帰って来い。

おめえの大事な子供が寂しがってるぞ。

心の中で呼びかける。


総司は、また来てくれると約束したけれど。

あんな約束で、総司を縛ってないだろうか。

離れてしまうと、不安が過ぎる。

どうして、俺はこんなに弱いんだろう・・・・。

総司に偉そうに言えないな。


総司は、俺を好きだろうか。

子供がいなくても?

いつか、子供が離れてしまっても

あいつは俺の傍にいてくれるんだろうか。

聞いてみたいけれど、怖い。













「ねえ、総司ったら。遊ぼうって言ってるじゃない。」

「う・・・ん、でも・・・・。」

「何よ、遊ぶくらいいいじゃない。」


俺は、強引な女の子が苦手だ。

歳さんも有無を言わせないところがあるけれど、あれで気を使うひとなんだ。

本当に嫌なら無理強いしないし、口は悪いけど態度は控えめだ。

歳さんと比べるのは良くないかもしれないけれど、やっぱり俺には歳さんだけなんだ。

眠いとか適当に理由をつけてかわし、隙を見て家を飛び出した。

外に飛び出して、ようやく安心する。

近藤さんが戻るまで、いつもの空き地で昼寝するかな。

たまのお陰で、すっかり寝不足だ。

ふぁっとあくびが出る。


「何処行くの?」


目の前に、見たことのある茶トラ模様。

どうしてここに!?


「ちゃあんと後をつけてきたの。逃げようたって無駄よ。」


にんまりと笑うたまは、してやったりの顔だ。

俺が出て行くのを、知ってたのか・・・・。


「さーて、何処行くの?今日はあたしとデートしましょ。」


ぎゅうと腕を組まれて、逃げ出せない。

デートって・・・・歳さんともしたことないのに・・・・・。

たまの方が一枚上手だったってことか。

寝不足と疲れで、振り払うこともできないまま

たまに引き摺られるように歩き始めた。