「ハルちゃんのお腹って、どうしてふわふわなの〜?」
「・・・・・・にゃあん。」
「鉄っちゃんの肉球は、どうしてこんなに可愛いの〜?」
「うにゅー・・・・」
ぷにぷに、ふにゅふにゅとした感触が気持ちいいのか
小鉄の肉球を触り、ハルのお腹を触り
とにかく、仔猫の柔らかさ堪能しまくっている。
何がしたいのか・・・・・俺も、飼い主の奇行に眉をひそめてしまう。
流石のガキどもも、ちょっと迷惑顔だ。
「のぶ姉、いい加減にしろよ。ふたりとも嫌がってるじゃねえか。」
「だって〜総ちゃん帰っちゃったし、あんた触らせてくれないし〜」
「ったりめーだっての。っとに、総司に何やってんだよ!」
俺の知らないところで、総司に何やってたんだ!
あいつも人がいいっていうか、馬鹿っていうか・・・・。
俺の飼い主だから、遠慮して我慢してたんだろう。
今度謝っとかなきゃな。
「総ちゃんは大人しく触らせてくれたのに〜」
「もうやんなよ!」
ああ、もう、どうにかしてくれ。
俺ひとりじゃ、くじけそうになる。
総司、早く来ねえかな・・・・。
「ねーねーねー、いつ来んの?」
「何がですか。」
「歳・さ・んv」
「来ませんよ!!」
もう何度、こんな会話をしただろうか。
原田さんちのサノさんは、すっかり歳さんにご執心だ。
とても綺麗なひとだから、オスが寄って来るのは仕方ないのかもしれないけれど
俺という旦那がいるんだから、少しは遠慮して欲しい。
斎藤も、諦めただろうか・・・・。
何だか気の毒だったけど、悪いとは思わない。
歳さんは、一番大事で、一番欲しいもの。
誰かに譲ることなんかできない。
例え、仲間でも。
絶対、絶対、歳さんには会わせない。
あのひとは、俺だけのものなんだから。
散歩から帰ってくると、近藤さんが先に帰っていた。
今日は早かったんだな。
「おう、おかえり。」
「ただいま。」
早速、近藤さんが俺の晩ご飯を用意してくれた。
美味しいご飯を食べながら、歳さんと子供達のことを考える。
ちゃんとご飯食べてるかな。
暴れて、歳さんを困らせてないかな。
離れていても、いつも思う。
歳さんが知ったら、他に考えることがないのかって言われるだろうな。
だけど、俺にとって、一番幸せなことだから、思っていたいんだ。
心地よくて、優しいもの。
そればかり考えて、どうしていけないんだって思う。
ふと気がつくと、ぼんやりしてた俺の頭を、近藤さんが撫でていた。
大きくて、温かくて、優しい手。
近藤さんがいたから、今の俺があるんだ。
歳さんに出会えて、子供にも恵まれて・・・・。
感謝してもしきれない。
ゴロゴロと喉を鳴らしていると、近藤さんが気まずそうに言った。
「あのな・・・・また実家に行かなきゃいけなくなったんだ。」
「え?」
「おめえはどうする?」
近藤さんの実家は、たまがいる。
だから、あまり近付きたくない。
できれば、またのぶさんの家に行きたい。
だけど、だけど・・・・それは俺のわがままだし。
複雑な顔で悩む俺を見て、近藤さんが噴出した。
「わかってるって、またのぶに頼むから、安心しろ。」
「・・・・・すみません。」
近藤さんも人が悪い。
俺は、たまの名前を聞くと、どうしても固まってしまう。
散々追っかけ回されて、くたくたになって、疲れてばかりだったから。
歳さんにも誤解されたし、できれるだけ接触したくない・・・・。
そろそろ寝ようかと、近藤さんが布団を敷く。
俺はいつも布団の上で丸くなって眠る。
いつもの場所に座り、さて、眠ろうかとした時・・・・。
どんどんどん。
玄関のを叩く音。
こんなに夜遅くに、何だろう??
近藤さんも不審そうに玄関に近付く。
「・・・・どちら様ですか?」
「あたしよ!お兄ちゃん、開けて!」
「ちえ!?」
「そうよ、あ・け・て〜!!」
やってきたのは、近藤さんの妹のちえさん。
何でこんな夜中に?
近藤さんも訳がわからないようだけど、そのままにしておくわけにもいかず
とりあえずドアを開けた。
「ひや〜寒い〜!」
身を縮こまらせて、玄関に入って来たのは、やっぱりちえさんだった。
「お前、何で来たんだ?」
「えー・・・車。」
「そうじゃなくて、どうしてここに来たんだって。」
「・・・・・しばらくお世話になります。」
「なっ・・・・また母さんたちと喧嘩したのか!?」
「だって、酷いのよ!今はバイトなくって、ちょーっと家にいたら
働けだの、でなきゃ、嫁にいけだの、うるさいんだもん。」
「当たり前だ!」
「そんな訳で暫く泊めて。ちょっとくらいいてもいいでしょ?」
「ダメだ。今日は泊めてやるけど、明日には帰れ。」
「やーだ!」
うわ。
大変なことになったなぁ。
俺はちえさんが苦手だ。
もしかして、暫く一緒に暮らさなきゃいけないのかな。
近藤さんとのやりとりを影で見守りつつ、不安になった。
ちえさんの荷物が大きいのを見ると、しばらくは帰らないかもしれない。
「もうしばらくは帰らないって置手紙してきちゃった。」
ずかずかと上がりこみ、どさどさと荷物を置いていく。
「お前、こんなに荷物、持ってきて・・・・」
近藤さんも荷物の多さに呆れている。
「だって、必要なもの、全部入れてきたのよ。」
ゴソゴソと荷物を解き出す。
ああ、やっぱり。
「あ、もちろん、この子も一緒ね。」
ちえさんが、籠を取り出した。
あれは・・・・もしかして・・・。
「にゃん。」
「「わ!!!」」
近藤さんと俺の声が奇麗にハモった。
あの、見覚えのある、茶トラ模様は・・・。
「えっへへ。たまちゃんだよ〜ん。」
やっぱり!!!!
たまを連れてきてたんだ。
何で、家出に猫を連れてくるんだ?
俺は自分でも驚く程素早く、近藤さんの後ろへ隠れた。
それでも、たまが目敏く俺を見つける。
そして、にやりと笑った。
「久し振りね、総司。」
俺は蛇に睨まれたカエルみたいに、固まるだけ。
最悪だ!