行っちゃ嫌だと泣くふたりに、後ろ髪引かれる思いで総司は帰っていった。

残された俺は、泣き止まないふたりを宥めるのに苦労した。

どうにか寝かしつけて、のぷ姉の部屋でぼやく。


「ハルちゃんたち、ようやく眠ったみたいね。」

「あーもう、毎回これだとやってられねえな。」


暴れるあいつらを宥めるのは、ハンパじゃない苦労だ。

流石の俺もぐったりしてしまう。


「そんだけ総ちゃんが好きってことでしょ。」

「甘やかし過ぎなんだよ、あいつ。」

「いいパパじゃない。あんたには勿体無いくらいよ。」

「ふん、あいつは子供好きなだけだっての。」

「あ〜、あんたたちは夫婦円満でいいわねえ。」


・・・・円満って訳でもねえんだけどな。

たまに別居しなきゃいけねえんだし。

つか、何だ?

のぶ姉は、こないだからおかしい。

ぼうっとしたり、実家に帰らなかったり、猫を羨ましがったり。

やっぱ、オトコか?

見ると、手に持ってるグラスは酒だ。


「ねえ、歳・・・・」

「な、何だ?」

「あんたさ、総ちゃんとは、どうやったの?」

「どうって?」

「結婚。」

「け。」


結婚って・・・・猫だから、結婚って言っていいのかわからねえけど。

どうして俺たちが付き合うようになったかってことか?

俺はこんな話は苦手だ。

だけど、のぶ姉は、元気がないし。

ここで話したくないなんて、言えない・・・・よな。


「あ・・・あいつが・・・俺のこと、
す、好きだとか・・・言って・・・」


めちゃくちゃ恥かしかったけど、どうにか答えた。

どうか、ツッコミ入れないでくれと願いながら。


「あんたも好きだったの〜?」


俺が想像していた以上に、アルコールは回ってしまっているみてえだ。


「い、嫌だったら、ガキなんかいねえよ!」


もう勘弁してくれ。

何だか泣きたくなってきた。

この酔っ払いめ!


「ホント、総ちゃんはいいコよね〜。あーあたしも、あんな彼欲しいわ。」

「のぶ姉・・・・。」


地雷を踏まないようにしてたけど、のぶ姉って・・・もしかして。


「振られたのか?」

「・・・・・。」

「彼氏に、振られたんだな?」

「まだ振られてないわよ!」

「じゃ、喧嘩して危ねえのか。」

「・・・・・。」


図星か。

飼い猫の欲目じゃねえが、のぶ姉は結構いい女だと思う。

美人だし、優しいし、たまに女らしさに欠けるとこもあるけど

振るには、勿体無い女だ。

ただ、とんでもない猫馬鹿なのは、たまに傷だけど。

なのに、今までのぶ姉は、彼氏に振られてばっかだ。

やっぱり、仕事ばっかやってるせいだろうか。


「いいの、いいのよ。あたしには、あんたたちがいるもん。」


溜息混じりに言われてもなぁ。

それって、かなり人生諦めてないか?

俺は、子供が生まれてから、そっちにかかりきりで、のぶ姉のに構ってなかった。

ゴメン、のぶ姉。


「何言ってんだよ、のぶ姉くらいだったら、男なんていくらでもいるだろ。」

「は〜〜〜〜〜。」


何を言っても、聞こえないか・・・・。

こりゃ、相手は大本命だったんだな。















近藤さん家に戻ってきた俺は、懐かしい部屋を一回りして

近藤さんを見送ったあと、仕事から戻ってくるまでの間、外に出た。

久し振りに縄張りを歩く。

ぽかぽかした陽気に、春が近いことを感じる。

つい、昨日行った公園で、子供たちと遊んだのを思い出す。

元気でやってるかな。

歳さんを困らせてないかな。

また今度会えた時には、今よりも大きくなってるといいな。

子供の成長は早い。

傍にずっといて見ているのにも関わらず、時々びっくりするようなことがある。

小鉄も、あんなに小さいのに、大人猫に向かって行くなんて

ハルに比べると、大人しい子だと思って心配してたけど、ちゃんと男の子なんだ。

自分の子供ながら誇らしい気持ちになった。

きっと、ハルも歳さんを守ってくれる。

自分がいない間、歳さんを守るのはふたりの役目だと教えてきた。

きっと、大丈夫だ。


「よ、総司。」


いつもの空き地の塀の上。

サノさん、新八さん、平助。

いつものメンバーで、和んでいる。


「久し振りだよな。元気してたか?」

「今日はいい天気だよね。」

「昼寝日和ですよね。」


なんて、挨拶を交わす。

ん?

原田さんがニヤニヤして、耳打ちしてきた。


「ねぇねぇ。奥さん、美人だよねえ。俺に紹介してくんない?」

「なっ・・・・ダメです!俺の奥さんに何考えてるんですか!!」

「いいじゃーん。お友達になりたいのよ。」


お友達って・・・・原田さんのお友達は、変なオトモダチってことだろ!

どうして原田さんが歳さんを知っているんだ?

きっと、昨日、歳さんを見かけたんだ。


「色っぽいし、綺麗だし、気が強いところも、ホント俺の好みv」

「ダメです!!!歳さんに変なことしたら許しませんよ!」

「歳さんって言うんだ・・・・可愛いな〜。」


たまに外に出たら、これだ。

歳さんは家の中にいて、滅多に外に出ないけど

あんなに綺麗なひとだから、他のオスが寄って来てもしょうがない。

だけど、嫌だ。

あのひとは、俺のものだ。

原田さんには、絶対会わせないって言ったけれど

それでも注意しとかなきゃな・・・・。

ん?


「ところで、斎藤は・・・?」

「さぁ、今日は来てないね。多分、落ち込んでるんじゃない?」

「何で?」

「はじめちゃん、おめーの奥さんに失恋したんだって〜。」

「・・・歳さんに?」

「別に、俺は奥さんでも全然OKなんだけどね☆」

「絶対ダメですからね!」


そうか・・・それで、歳さんに絡んでたのか。

しかも、俺との子の小鉄に撃退されたんじゃな・・・。

だけど、歳さんは俺の大事な奥さんだ。

誰が相手でも、譲るわけにはいかない。

近付かないよう言っておこうと思ったけれど、この分じゃ心配要らないな。

友達が減ってしまって、少し寂しかったけれど、しょうがない。

俺が守るのは、歳さんと子供達なんだから・・・・。




さっき別れたのに、また会いたくなってきた。

本当は、もっと、ずっと一緒にいたい。

だけど、仕方ない。

泣いて、行っちゃ嫌だと縋ってくる子供達を、どうにか宥めて帰ってきた。

胸が痛くて、こっちが泣きそうになった。

近藤さんも、その様子を見ていて申し訳なさそうにしてた。

近藤さんが悪い訳じゃない。

全部、俺のわがままなんだ。

だけど・・・・・いつか、一緒に暮らしたいな・・・。

ぼうっと空を眺めた。

会いたいのに、会えない。

同じ空の下でも、こんなに遠い。

手のひらに、仔猫のひっかき傷。

ふたりと遊ぶと、まだ爪をひっこめられないから生傷だらけになる。

あの子たちの夢でも見ようかな・・・。

陽だまりで、日向ぼっこしながら、昼寝をした。

日が傾きかけた頃、家に戻って近藤さんを迎える。


「おかえりなさい。」

「ただいま、総司。」


早速、猫缶を開けてくれる。

ご飯は、いつもドライフードなんだけど、会社の人から猫缶をもらったらしく

夜は、ちょっと贅沢ができるんだ。

食べていると、近藤さんもゴソゴソと食べ物を出している。

あれは・・・「こんびに」ってところのご飯だ。

歳さんが「コンビニ飯ばっか食うの、やめろ」って言ってたっけ・・・。


「近藤さん、近藤さん。」

「ん?」

「それってダメなご飯じゃないんですか?」

「う・・・うーん、今日はもう疲れてな。歳たちには内緒にしててくれ。」


苦しそうに、そう言うと、ご飯を「れんじ」に入れていた。

「れんじ」は、あっためる機械だ。

あっためる間に、近藤さんはテレビをつけて、ビールを飲む。

歳さんが言ってたっけ。

ひとりでコンビニ飯食って、テレビ相手に晩酌って、独身男の典型だって。

何となく、背中が寂しそうだ。

俺たちでさえ、家族とご飯食べているのに・・・・。


「近藤さん。」

「ん?」


温まった焼きソバを食べながら、こっちを見てくれた。


「近藤さんは、お嫁さん貰わないんですか?」

「・・・・・貰えるなら貰いたいんだけどなぁ。」

「どうして貰えないんですか?」

「そ・・それは・・・まぁ、色々あってな。俺だって、おめーみたいに美人の嫁さん欲しいよ。」


よくわからないけど、俺が歳さんをお嫁さんにできたのは

幸運だったってことだろう。

だけど、歳さんの初恋の人は、近藤さんなんだ。

それを知った時、俺はすごく嫌な気分になったけど

近藤さんなら仕方ないかなって思った。

今は俺の奥さんだし。

俺は今まで、自分のことだけ考えてた。

こんなんじゃダメだ。

近藤さんも、きっと寂しいんだ。

だけど、俺に何ができるだろう・・・・。