「あけましておめでとうございます。」

「あー・・・・ます!」

「あけましておめでとう。」

「けまて・・・とう!」

「やっぱり、まだ無理か〜。」


お正月が来て、挨拶を教えてるけれど、まだ二人は上手く言えない。

色々しゃべるようになったけれど、よくわからないものが大半だ。

言葉は、ハルが早かったけれど、小鉄もハルの真似をしているうちに

段々と話せるようになった。

ちょっとずつ教えていってるけれど、こういうことは主に俺が。

歳さんは、礼儀とか心得みたいな・・・そういうものを教えてる。

でも、基本的には子供の面倒は、俺が見ている事が多い。

単に遊び相手だと思われてるのかもしれないけど。


歳さんは、のんびりとあくびなんかしている。

のぶさんは、お屠蘇でほろ酔い気分だ。

人間のいう「正月」って、こうやってゆっくりと過ごすことなのかな?



年が明ける前に、近藤さんがやってきた。

実家に帰るから、俺も・・・ということだったけれど。

俺は、できれば、暫くは近藤さんの実家に近寄りたくなかった。

だって、また「たま」に追い掛け回されたら・・・・・・。

俺には、そういう気持ちはないけれど、いつのまにか歯型がついていて

歳さんにめちゃくちゃ怒られた。

もう、疑われるようなことはしたくないんだ。

怒られるのはいいけれど、泣かれるのは困る。

歳さんが泣くと、どうしていいかわからなくなってしまうから。

近藤さんには申し訳無いと思う。

でも、俺のことを察してくれたのか、笑って帰っていってくれた。

ごめんなさい。

俺は、近藤さん家の猫失格だ。














人間の正月ってのは、一年の始まりってことらしい。

人が決めた基準ってのは、よくわかんねえが、まぁのんびりできて悪くないと思う。

何より、ご馳走が出るしな。

総司は子供と遊ぶのに夢中だ。

こうしてみると、ガキが3人に増えたようだ。

お陰で、俺はこうしてのんびり昼寝できるから、ありがてえけどな。

のぶ姉も、ぼーっと寝転んでテレビを見てる。

まだ若いはずの飼い主は、一日中食っちゃ寝でゴロゴロしている。

彼氏がいたはずなんだけど・・・どうなんだろう。

飼い猫の身分としちゃ、飼い主の婚期も気になるところだけど

賢い飼い猫である俺は、危うきに近寄らない。




「にゃー。」

「あ・り・が・と・う。」

「にゃりにゃ・・・にょ!」

「上手だね、その調子。」


小鉄はともかく、飽きっぽいハルに上手く言葉を教えている。

ホントにガキが好きなんだなー・・・・・って。

俺の子でもあるんだけど、あいつがマメに面倒見るもんだから

俺の出番は、ほとんど無し。

あいつらが悪さして、怒ったり叱ったりする時だけかな。

なんつーか・・・・・穏やかだよな・・・。

こんなに平和でいいんだろうか。


「歳さん、この子たち、もう随分言葉覚えたよ!」


総司の興奮気味な声。

そうかそうか。

おめえがこんなに子供に夢中になるとは思わなかったよ。

産んだ甲斐もあるってもんだ。

寝転んだ俺の上に、ガキが抱きついてくる。


「みゃー!」

「にゃーにゃ!」

「ぐぇ・・・・おい、いっぺんにふたり来るなよ。」


二匹いっぺんだと、結構重い。

元気なのは何よりだが、すくすく育ちすぎだ。


「ああ、ダメだよ。ママが苦しがってるじゃないか。」


俺が何度「ママ」っつーの止めろと言っても、総司は聞かない。

ガキはもう「かーちゃん」って呼んでるのに・・・。

ちょっと頼りないけど、父親らしくなったよな、こいつも。

つか、俺といるよりも、ガキと一緒にいてえんじゃねえのか?

なんてことを考える。

これじゃあまるで、俺が構われなくなって寂しいみてえだ。

じっと総司を見る。

こっち向け。

こっち向け。

何となく、そんなことを思っていたら、くるりと総司が振り向いた。


「何?」


にっこり笑って、近付いてくる。


「呼んでねえよ・・・。」

「あれ?呼ばれた気がしたんだけどなぁ。」


俺は嘘は言ってない。

こっち向けとは思ってたけど、呼んではいねえ。

総司が首をひねるのを見て、ちょっとだけ気分がすっとした。















「じゃあ、この子たち寝かしつけてくるから。」

「ああ。」


総司が、昼寝をさせに、子供を連れて行った。

飯の世話から、昼寝まで、しっかり面倒見ている。

・・・・・こんなに楽でいいのか?

まぁ、好きでやってるのに、止めさせる理由もないからいいか。

俺も、ちっと昼寝でもするか・・・と思っていたら。

背中に、誰かの気配。

誰かって言っても、総司しかいねえけどな。


「歳さん。」

「んー?」


総司が、しっぽをパタパタさせて、寝っ転がっている俺を覗き込んでいる。

そのまま、顔が近付いてきて・・・・・。


ちゅ。

唇に触れた。

俺は、驚くどころか、暢気にも、こういうのは久し振りだと思った。

両手で、総司の頭を引き寄せて、口付けた。

何度も啄ばむように口付けて、次第に深くなっていく。


「・・・・ん・・・」


そろそろと舌を入れて、互いを味わう。

絡み合う舌が、体に熱をもたらす。


「ね・・・向こう行こうか。」


少しかすれた声で、総司が誘う。

口付けてるうちに、我慢できなくなったらしい。

表情はいつもどおり。

ただ、目が爛々としている。

ああ、ホントに久し振りだよなぁ・・・・・・。

総司のぬくもりが思った以上に心地いい。

俺も、その気になったから、素直について行った。

いつもの場所に入ると、総司が抱き締めてきた。

総司が性急に身体をまさぐる。


「ちょ・・・・」


静止する言葉は塞がれて、毛布の上に横たえられ、圧し掛かられた。

こいつは〜・・・。

まぁいいか。

いつも子守りしてくれてるから、たまには労わってやらなきゃな。

総司のあったかい体が気持ちいい。

子供の前とは、全然違う、総司の顔。

オスの匂いがして、どきりとした。














総司が俺の腹を撫でる。

総司を受け入れている俺は、それどころじゃなくて

ずっと無視してたけれど、やたらに撫でるから

とうとう聞いてみた。


「何・・だよ・・・」

「ん?・・・赤ちゃんできるかなぁって。」

「ばぁか・・・そうガキばっか産んでたまるか・・・」

「次は女の子がいいなぁ。」

「あいつら・・・・だけで、充分だ・・・って・・・」


二匹だけでも持て余しているのに、これ以上増えるなんて。

今はまだ、あいつらだけでいい。

あの小粒の悪魔たちだけで。


「俺が面倒見るから、いいでしょ?」


いらねーっての。

・・・っとに、あいつらがヤキモチ妬くだろ。

赤ん坊が生まれたら、そっちにつきっきりになるだろうに。


「・・や・・・も・・べらべらしゃべ・・・るな・・・」

「はいはい。・・・・集中します。」


子供は嫌いじゃねえけど、大変だ。

俺の子育ては、こいつほどマメじゃねえけど

増えれば増える程いいという、こいつの考えは、よくわからねえ。

毎日暴れるわ、騒ぐは、総司は生傷だらけなのに。

でも、いつか・・・もう少し、あいつらが大きくなったら手がかからなくなる。

そうしたら、総司はガキの成長を喜ぶ反面、きっと寂しがるだろう。

その時には、もう一人くらい産んでもいいかなと思う。















二人で、毛布に包まる。

いつもは子供を挟んで眠るから、こういうのは、何だか楽しい。

そして、やっぱり総司が好きだと思う。


「おめえ、近藤さんはいいのかよ。」

「うん・・・帰ってきたら、一度戻ろうかと思うんだ。」

「・・・そうか。」

「のぶさんにも、お世話になりっぱなしで・・・・」

「のぶ姉は、おめえが気に入ってるからいいんだよ。いなくなったら寂しがるぜ。」

「そうかな・・・・。」

「ガキどもも、寂しがるしな。」

「それが一番辛いんだけどね。」


こればっかりは、俺もどうしようもねえ。

総司は近藤さんの家の猫。

そして、俺は、のぶ姉に飼われている。

一緒に暮らしたいのは、俺も同じ。

だけど、しょうがねえ。


「でもね、俺は近藤さんの家から通うよ。」

「ん?」

「ずっと、ずっと通うよ。」


総司が、じっと俺の目を見詰める。

茶色の明るい瞳。


「俺は我儘かもしれないけれど、それでもここに来るよ。」


総司の静かな目。

こんな時、近藤さんにワガママ言うなって、叱らなきゃいけねえのに、言えねえ。

だって、すげえ嬉しいから。


「うん・・・待ってる。おめえが来るの、いつでも・・・。」




総司は、もう子供じゃない。

俺が思うよりも、もっと周りを見て、考えているんだ。

離れるのに、不安を感じないわけじゃない。

きっと、総司も不安なままだろう。

だけど・・・・だからこそ、今のままでいることしかできないんだ。

どちらか、なんて答えを出す必要はないのかもしれない。

焦らなければ、きっといつか、いい方向へ向かう。

総司と俺が、願う方向へ。

急がなくてもいい。

俺たちは、急ぐ必要なんか、無いんだから。

のぶ姉も、近藤さんも、きっとわかってくれる。

ちゃんと信じなきゃいけない。

こんなに大事にされているんだから。




指を絡ませる。

見詰め合う。

いつのまにか、俺は、おめえに教えられている。

子供だとばかり思っていた総司。

俺が守ってやらなきゃいけないと思っていたのに

気がつくと、俺の前にいた。




総司。

総司。

俺は、おめえが好きだ。

一緒にいたい。

幸せになりたい。



人間が願うように、俺も見えない何かに願いを込めた。