一日経つと、多少慣れてきて、近藤家の中を歩き回った。
近藤さんの家族にも慣れてきて、それなりに愛想をふりまいた。
ちえさん以外は・・・・。
やっぱり、あの人だけは慣れない。
申し訳無いけれど。
近藤家の人たちは、猫を飼っているだけあって、やたら構ったりしない。
おばさんの御飯は美味しいし、おじさんはさりげなく優しくしてくれて
近藤さんもそうだけど、何だか・・・・すごく安心する。
俺も、こういう父親になりたいな。
そう考えて、やっぱり思い出すのは子供たち。
ハルと小鉄・・・・どうしてるかな。
元気にしてるだろうか。
歳さんを困らせてないだろうか。
早く、早く会いたい。
ぼんやりと考え込んでいると、背中に温かい感触がした。
「うわ!!」
驚いて飛びのくと、そこにはたまがいて。
「失礼ね。何よその態度。」
ちょっと拗ねてみせる顔は、どことなく楽しそうで。
からかわれているんだとは思うけど、それでも俺は落ち着かない。
たまは、こうして俺のあとをついてきて、ちょっかいをかける。
好奇心と暇つぶしなんだろう。
できるだけ相手にしないようにしているけど、そうするとムキになって構いにくる。
困り果てて、近藤さんに相談すると。
「いいじゃないか、モテて。歳には内緒にしとくからな。」
・・・・なんて言われる始末。
俺は、そういうつもりは無いんだって・・・・。
仕方ないから、帰るまで無視することにした。
だけど、無視すればするほど、やたら構いたがる。
完全に無視は可哀想だから、少しは相手をしてあげようかな。
「ねえ、総司の奥さんってどんなひと?」
「とても綺麗で、可愛いひとだよ・・・。」
「そうなんだ・・・だから、あたしじゃ駄目ってことかぁ。」
「そういう訳じゃないよ。俺は・・・あのひとだけでいいんだ。」
「ふーん・・・・。総司がそう言っても、相手はどうなのよ。」
一瞬、痛いところを突かれた気分になった。
歳さんも・・・・俺だけだよね。
俺に他の雌のところへ行くなって言ったし。
でも・・・・今はちょっと自信が無い。
歳さんは今でも俺を好きでいてくれてるの?
聞いてみたいけれど、聞くのが怖い。
黙り込んだ俺は、すっかり考え込んでしまい、気付くのが遅れてしまった。
たまが近づいてきたことに。
ふと、頬に温かいものが触れた。
「わ!」
気付くと、たまの顔が至近距離にあって
触れたのが唇だとわかり、驚いて後ずさる。
「ぼーっとしてるからよ!」
顔を赤くして、目を丸くしてる俺がおかしいと
たまは一人で笑っている。
ああ、もう・・・・いつになったら帰れるんだろう・・・・。
楽しそうなたまを尻目に、俺は一人、溜息をついて落ち込んだ。
総司が来なくなって1週間経った。
休日に差し掛かり、近藤さん達はそのまま実家にいるという。
お祖母さんの様態はたいしたことないそうだから
いずれ戻ってくるだろうと、のぶ姉が言ってた。
俺は何とか育児をしながら過ごしている。
これが普通なんだ。
一人でもこいつらの面倒見れる。
大丈夫だ。
そう思いながら、1日が過ぎていく。
「どうかしたかい。ぼうっとして。」
「あ・・・。」
伊庭が心配そうに見ている。
そうだった。
伊庭は、こうして時々遊びに来ては、餓鬼と遊んでくれる。
総司がいない今、思い切り暴れられる相手がいて、ふたりとも楽しそうだ。
俺も気分転換になるし・・・・。
でも、総司が知ったらいい顔しないどころか、きっと怒る。
わかってるのに。
「心配事かい?」
「おめえが来てるのを知ったら、怒られるかなって。」
「おいらは歳さんの友達だもの。変な誤解されるようなことはないよ。」
「そうかな・・・。」
「それに、おいらはとっくに振られちまったしね。」
そうだ。
俺は、総司と一緒になることを選んだんだ。
餓鬼の頃から一緒にいたあいつを、いつからそう見てたのか。
そんな自分が嫌で。
知られるのが怖くて。
見て見ぬ振りしてた。
ずっと、嫌われていると思ってたから。
じわりと、熱い塊が喉を通り過ぎていくような感覚。
ぱたぱたと足元に水滴が零れ落ちて。
「また歳さんは泣いてるね。」
「ごめん・・・・。」
痛い。
息苦しい。
ぼろぼろと涙が零れる。
止まらない涙に、顔を両手で覆った。
伊庭と会うのも、総司を疑うのも
全部怖いんだ。
あいつすら信じられないほどに。