「猫のくらし」
子供と俺と総司・・・・と、のぶ姉。
これが今の家族構成だ。
総司は、ずっと俺の家にいる。
子供に夢中で、片時も離れたくないと言う。
俺も、二匹の子供の面倒は見れなくもないが
総司がいてくれると、随分助かる。
俺よりも熱心に育児に励んでくれてるからだ。
俺は、そこまで構えねえ・・・・。
ホントに、子供好きだったんだなぁと感心してしまった。
さらに、のぶ姉も「でじかめ」とかいうものを買ってきて
子猫の「写真」を取りまくっている。
猫好きなのぶ姉は、俺が子供産むのを待ってたようだ。
だから、あんなに見合勧めたのか・・・・。
子猫にメロメロなふたりに、俺はちょっと引き気味だ。
まぁ、可愛がらねえより、いいけど・・・・・。
子供の名前は、「ハル」に「小鉄」だ。
名付け親は、のぶ姉と近藤さん。
どっちかどうつけたかは、言わなくてもわかるだろう。
趣味がはっきりしすぎだよな。
白に茶色のブチがハル。
白に黒のブチが小鉄。
俺に似てなくもねえが、どちらかといえば
二匹は総司に似てる。
まだよちよち歩きで、言葉もカタコトだけど
男の子だけあって、元気がいい。
まだ乳離れもできないくらいチビのくせに元気いっぱいだ。
毎日、ころころ転げるように暴れている。
総司ものぶ姉も、幸せいっぱいって顔してるし・・・。
ちょっと気恥かしいけど、こういうのも・・・・・まぁいかと思う。
・・・・・って、よくねえ。
良くなかったんだ。
それは、約一名。
「あたしだって忙しいのよ〜。ゴメンね〜。あっもう切るわね!」
がしゃん。
のぶ姉が、乱暴に受話器を置いた。
電話の相手は、わかってる。
近藤さんだ。
「のぶ姉・・・・・。」
「近ちゃんったら、寂しい寂しいってうるさいのよ。」
はぁ。
すっかり忘れてた。
総司はこっちにばかりいて、近藤さんは放ったらかし。
ずっと家に帰っていない。
近藤さんも、のぶ姉に負けない猫好きだ。
子供達を見た時、すげえ喜んでた。
なのに、会えたのは、ほんの数回。
仕事が忙しいらしく、なかなか時間が取れないから仕方ねえけど。
今が可愛い盛りなのに・・・・。
子供はまだ小せえから、あっちの家に連れて行くのは無理だが
独りで寂しがってるのを放っておく訳にはいかねえ。
俺は、子供を抱っこしてる総司に向き直った。
「総司、おめえ、たまには近藤さん家に帰ってやれ。」
「え・・・・。」
「え〜いいじゃない、近ちゃんなんて。総ちゃんはうちのマスオさんだもん。」
のぶ姉が、口を挟む。
話がすすまないのは、わかりきってるから退場してもらう。
「のぶ姉は黙っててくれ。話が進まねえ。」
あっち行っててくれ、と追い出した。
ぶーぶー文句言われたが、これは総司の問題だ。
当の総司は、もの言いたげな顔をしてる。
何か、良くねえこと考えてないか?
ちゃんと言っておかねえと、誤解するな・・・・。
「おめえがいてくれると助かるけど、うちにばかりいたんじゃ
近藤さんが可哀想だろ。」
それは、総司も気になっていたようで、難しい顔して黙り込んだ。
「ガキどもは俺が見るし・・・・まぁ、何とかなるだろ。」
「でも・・・・・。」
「あのなぁ、こいつら小せえけど、ちっとばかし離れたくらいで、
親の顔忘れる訳ねえって。」
「わかってる・・・・。」
「うちに来るなって言ってるんじゃねえ。大変だろうけど
時々は向こうにも帰ってやって欲しいんだ。」
総司は、納得できてはいない様子だけど
俺の言うことも、よくわかってるはずだ。
「じゃあ・・・・ちょっとだけ、帰るよ。」
そう言って、総司は近藤家に戻って行った。
散々、未練がましく、名残惜しげに、ようやく帰って行った。
俺も・・・ホントはいて欲しいけれど、しょうがねえ。
ほんの数日を、向こうで過ごすだけだと、そう自分にも言い聞かせた。
ちょっと大変だったけど、のぶ姉も手伝ってくれるし
どうにか二匹の面倒を見ている。
だけど、子供は総司を探して・・・・いないとわかると、寂しがった。
俺より面倒見てたんだもんなぁ・・・・。
総司がいない分、俺が構ってやらなきゃな。
そう頑張ったせいで、毎日へとへとに疲れた。
ちょっとはきりすぎた。
こりゃ、自分のペースでやらねえと、もたねえな。
昼間でも、子供に乳をやりながら、うとうとしてしまう。
一生懸命に乳を吸う子供を、膝に乗せていると、日に日に重くなってる気がする。
少しずつ大きくなっているんだな・・・。
腹いっぱいになったら、次は昼寝だ。
二匹を抱えて、毛布の上に寝かせる。
俺も、隣に横になった。
もうちょっと・・・・でかくなったら、近藤さん家に連れて行こう。
そしたら、近藤さんも寂しくないし、総司も安心できるだろう。
そんな事を考えながら、子供の背を、とんとんと叩く。
産まれた時は、自覚がなかったせいで、あまり実感がなかったけれど
こうして子供といると、やっぱり自分が産んだ子なんだなぁと思う。
総司に似てはいるが、俺の面影がない訳じゃない。
小さな手のひらの、小さな指。
その上に、ちょこんと爪がある。
可愛い・・・・。
総司がうちに来たときは、もっとでかかったから
俺は、こんなに小さな猫を見るのは初めてだ。
早く、でかくなれよ・・・・。
寝かしつけている間に、俺も眠ってしまったようだ。
それでも、疲れていたせいか、なかなか意識ははっきりしない。
遠くで声がする。
のぶ姉の声だ。
玄関で誰かと話してる・・・。
誰だ?
近藤さんだろうか。
総司、帰ってきたのかな。
きっと、大袈裟に「会いたかった」なんて言うんだろう。
今日は、子供に構い倒しかもしれないと思いながら
俺は、夢現を彷徨った。