ゆっくりと意識が浮上する。
遠くに聞こえる、総司の声。
そして、子供の泣き声。
楽しそうな声。
ああ、そうか。
総司が帰ってきたんだ。
嬉しそうな、子供のはしゃぐ声。
きっと、遊んでもらっているんだろう。
だんだん意識がはっきりするけれど、それでも心地よくて
目を開けられずにいた。
ふんわりとした毛布の感触。
すっかり涼しくなったから、毛布が気持ちいい。
おっくうながらも、周りが気になって、少し目を開けた。
周囲の明るさが、眩しいくらいだ。
いつもの自分の寝床。
そう言えば、あのまま眠ってしまったはずだ。
総司が運んでくれたんだろうか。
とたんに、ちょっと恥かしくなる。
だるさが残るけれど、目を開け、起き上がる。
多くのびをして、ぼんやりした頭を覚醒させる。
声は、居間の方からだ。
そろそろと、戸を開けて、隣の部屋を覗き込む。
二匹が騒ぎながら、総司にじゃれている。
総司は、嬉しそうに子供の相手をして・・・。
何だろう。
すごく、すごく、嬉しくて、切ない。
声をかけることもできずに、ただ、その光景に見入っていた。
「あ、歳さん、起きたの?」
総司が俺に気付いて、笑いかける。
ハルと小鉄も、気付いて、走り寄ってくる。
・・・っても、突進に近い。
まだ子供だけれど、二匹に突進されたら、流石にひっくり返りそうになる。
「うわ!や、やめろ!」
慌てて避けるけれど、二匹は方向を変えて走ってくる。
「ちょ、ちょっと・・・来るな!総司、助けろ!」
「こーら、駄目だよ。ふたりとも。」
総司が手早く首根っこを掴んで止めてくれた。
流石だ。
手馴れている。
「歳さん、困ってるだろ?」
にゃあにゃあと抗議の声を上げて、二匹が暴れる。
だけど、軽々と二匹を抱え、俺の傍にやってきた。
「ほら、ママにおはようって言って。」
「ママって言うな!」
俺がこいつらの母親なんだから、恥かしいってのはおかしいけれど。
それでも、恥かしいものは、恥かしいんだ。
「じゃあ、どう言えばいいの?」
「う・・・・か・・・母さんとか・・・?」
「まだ、この子たち、そんなに話せないよ。」
「だけど・・・」
ママってのは、勘弁して欲しい。
いつか、こいつらにも言葉を教えなきゃな、と。
そう考えてたら・・・・。
「ぉあよ!」
へ?
「おあよー!」
しゃべってる・・・・・。
ハルも、小鉄も・・・・。
「いつから・・・・」
「さっき、言葉を教えたら、話したよ。」
まだ、何言ってるかわかんないことも多いけど・・・・と総司は言う。
「そうか・・・・」
こんなにでかくなったもんな。
見た目だけじゃなく、中身もちゃんと成長してるんだ。
二匹を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。
「ちょっと感動だよね。」
総司も同じ気持ちなんだろう。
子供ができたことは、全く予想外で。
産まれたから、しょうがないという気持ちもあった。
だけど、今は、産んでよかった。
そして、総司がいてくれて、良かった。
同じ気持ちを、分かち合える相手がいる。
こんなに嬉しいことはない。
心から、そう思える。