「歳さん。」


すぐ近くまで、総司が来ているのに、気付かなかった。

どうしよう。

振り向けない。

心臓がうるさい。

どうしたんだ、俺・・・・。




歳さんは振り向かない。

聞こえているはずなのに。

不安になって、肩に手を置いた。

歳さんの体が、びくりと震える。

それでも、振り向いてくれない。


ずっとずっと、触れたかった。

ようやくふたりだけになれたのに。

なのに、歳さんは俺を見ない。

どうして?

俺のこと、嫌になってしまった?

後ろから、ぎゅっと抱き締めると、歳さんのいい香りがした。

ずっとずっと、こうしたかった。

腕の力を、そっと緩めて。

でも、逃げられないように、腕に閉じ込めたまま、こちらを向かせた。


振り向いた歳さんの顔は、ほんのり赤くて。

潤んだ目で見上げられて、どきりとする。


「・・・あ、」

「あ?」


きゅっと結んだ桃色の唇が綺麗で。

口付けたくなったけれど、ぐっと我慢して、歳さんの言葉の続きを待った。

耳をぴんと立てて、小さな声を聞き逃さないようにした。

何?

何が言いたいの?

しばらくして、歳さんが口を開き。

本当に小さな小さな声で。



「・・・ぁいたかった・・・」


そう言った歳さんの顔が、真っ赤になった。

もしかして、こっちを向いてくれなかったのは、照れてただけ?


「歳さん・・・・!」


たまらなくなって、ぎゅっと抱き締めても、歳さんは嫌がらない。

それどころか、俺の背中に手を回して、抱き締め返してくれる。


「俺も、会いたかったよ・・・。」


こくん、と歳さんが頷く。

子供みたいな、可愛いしぐさに顔が綻んでしまう。

何だか、とっても素直だ。

俯いた顔を覗き込むと、伏目がちにした目元も、ほんのり紅くなって。

どきりとした。



片手で、歳さんの頬に触れ。

そっと唇を寄せた。

柔らかな唇が気持ちいい。

何度も啄ばむように唇を合わせながら、次第に深く合わせた。


「・・・あ、そ・・・じ・・・」

「・・・・なに・・・?」


上手く息ができないのか、歳さんが苦しそうに話そうとするのが色っぽい。

俺は、甘い唇を離したくなくて、歳さんをきつく抱き締めた。


「待っ・・・こ、ここじゃ・・・」


歳さんが身を捩りながら、俺の肩に手を置いて、押し返そうとする。

すぐ傍には子供が眠っているから、落ち着かないんだろう。


「また、あっちに・・・」


歳さんは、隣の部屋へ視線を向けた。

あの押し入れのことを言っているんだ、とわかった。


それって、誘ってるの?

何だか、すごく積極的だ。

赤い顔をして、恥かしがる歳さんの顔は、すごく色っぽくて、可愛くて・・・・。

心臓がドキドキして・・・・俺は、たまらなくなった。



「こっち・・・・」


歳さんが自分から、隣の部屋に向かう。

俺は、手を引かれて・・・・いつもと逆だ。


戸を閉めると、中は真っ暗かと思ったけど、意外に薄暗かった。

ハルや小鉄が破いて、薄い紙を貼り付けたあとから

ぼんやり灯りが差し込んでる。


歳さんが抱きついてきた。


「総司・・・・。」


しっかりと抱き締め返しながら、俺も我慢できなくなった。