総司と俺は、いつもどおりに戻った。
だけど、やっぱりあいつはどんどんでかくなって
俺より、ちょっとでかいくらいだったのが
今では、結構な差が出てしまった。
話をするにしても、見上げなくてはいけない。
こうなると、じゃれることもできない。
飛びかかれたら、俺は潰れてしまう。
しかも、でかくなったのは体だけじゃなく
何かと偉そうな口ばかり利く。
ああ、可愛くねえな。
イライラするのは、そのせいじゃねえけど
面白くねえ。
歳さんは、最近いらいらしてる。
何故なのか、自分でもよくわからないと言う。
わからないから、余計に落ち着かずに、イライラしてしまうようだ。
何故か、顔を赤らめながら、そう言うけど。
イライラが止まらない。
くそ、やっぱ、しょうがねえな。
そんな時期だから、諦めるしかねえが
イライラして、関係ないあいつに当たるのは、可哀想だ。
だから。
「おめえ・・・・・しばらく、うちに来るな。」
「え?」
「ずっとじゃねえ。当分ってことだ。」
「・・・・・どうして?」
やべえ。
言い方がまずかったかな。
総司の不安げな顔に、どきりとした。
そうじゃねえ。
「俺が・・・・嫌?」
「嫌じゃねえよ・・・・ただ、俺がちょっと調子悪くて
・・・おめえに迷惑かけちまうから・・・・・。」
「どこが悪いの?大丈夫?」
ますます顔を曇らせてしまった。
ああ、もう、駄目だ。
説得は失敗だ。
だけど、まぁ、まだ餓鬼のこいつには関係ないか。
これ以上、ややこしくすると面倒だ。
それきり返事を濁して、その話には触れなかった。
歳さんの様子がおかしい。
いきなり、俺に会いに来るなと言うし。
だけど、すぐに撤回したり。
どうしちゃったんだろう・・・・・。
何か悩んでいるのかな。
俺じゃ頼りにならないかな。
春らしい暖かい日。
歳さんに会いに来た。
のぶさんは、仕事の用事で急に呼び出され
俺に留守を頼んで、出かけてしまった。
歳さんに、この間のことを聞いてみたい気持ちがあったから
丁度良かった。
でも、歳さんは、昼寝をしていて。
ちょっと、残念だったけど、しばらくすれば起きるだろうから、そっとしておこうと思った。
折角、気持ち良さそうに眠ってるのを起してしまうのは可哀想で。
起さないように、横に座った。
歳さんは、警戒心の塊だけど、俺やのぶさん、近藤さんが近づいても
気配でわかるのか、中々起きたりしない。
眠っているのを幸いに、近づいて、顔を覗き込む。
何だろう。
この間から、歳さんの近くにいて、気になることがあった。
それは、においだった。
いいにおいが、いつもしているのは知っていたけど。
最近は、違う。
頭の奥に響くような、甘いにおいがする。
このにおいを嗅ぐと、俺は落ち着かない。
どきどきして、むずむずする。
こんな感覚、初めてだ。
歳さんが、すごく、すごく好きだって想う。
以前、見たあの光景・・・・・。
あれを歳さんとしたいと思うのは、いけないことなんだろうか・・・・。
綺麗なガラス玉のような大きな目は閉じられていて。
かすかに開いた唇は、花びらみたいだ。
どきどきと心臓が鳴る。
そっと、そっと、近づいて
自分の唇と、触れ合わせた。
・・・・・・柔らかい。
すぐに離すつもりが、もう少し、もう少しと
甘い感触に離れがたくなった。
唇を覆って、ちょっと吸ってみる。
びりびりと背中が痺れる。
気持ちいい。
口を塞がれて、息苦しくなったのか
歳さんは苦しそうに顔を背けた。
細い首筋が露になって
そこから、あの甘いにおいが、むせ返るほど強く、香った。
頭がくらくらする。
背中に、今まで感じたことのない、激しいものが通った。
我慢、できない。