「はーい、お年玉よ〜v」
「にゃあん」
のぶ姉のつまみの刺身を貰って、喜ぶ仔猫たち。
仔猫っても、だいぶでかくなった。
ぼさぼさの毛並みも、段々としっかりしてきて
結構話すようにもなったし、色んなことも憶えてきた。
だけど、でかくなった分、体力も増えて、ますます元気だ。
ふたりいっぺんに暴れ始めたら手がつけられない。
「いい子ちゃんね〜v今年もよろしくね。」
「うん、よろしくね!」
「のぶちゃん、よろしく!」
しかし、何だ、あの赤と白の首の紐は。
ガキはよくわからずにされるがまま。
のぶ姉に聞いたら、めでたいからという。
何がめでてえんだか・・・・。
でも、まぁ、多少のことは目を瞑る。
随分世話になってるしな。
いい飼い主だと思う。
仕事が休みの間、一日中家にいて、子供の相手をしてくれる。
それは助かるけど、今度は俺が暇だよなぁ・・・・。
大きくあくびをすると、昼寝したくなってきた。
「眠い?歳さん。」
あ。
そういや、こいつもいたんだった。
近藤さんが実家に帰っている間、預かることになったんだ。
近藤さんの実家に、こいつの浮気相手がいるというから
身の潔白の為に、うちに引き取った。
ふん、雄ってのは若くて可愛い雌がいたら、ふらふらするもんなんだな。
1つ勉強になったぜ。
何にもしてねえって言い張るから、許してやったものの
今度、ふらふらしたら、俺も浮気するって言ってやった。
そしたら、顔真っ青にして謝ってやんの。
俺だって、まだまだ子持ちとは思えねえって言われるし
結構モテるんだぜ。
・・・・多分。
「総司。」
「何?」
「俺って、どうだ?」
「え?」
「やっぱ所帯臭いか?」
「え、いや、そんなことないよ・・・・」
「そうか?」
「うん、歳さんは毛並みも綺麗だし、子供がいるようには見えないよ。」
総司が紅くなりながら、俺を褒める。
てめえの女房に、なにモジモジしてるんだか・・・。
呆れ半分、少しホッとした。
よしよし、まだいけるみてえだな。
総司をからかって暇をつぶす。
自分でも、何だか逞しくなったような気がする。
それにしても、意外にこいつ、もてるんだな。
近藤さん曰く、雌から言い寄られることが多いけど
でも、俺がいるからって断わり続けてるらしい。
最初、会った時は、小汚ねえガキだったのに。
痩せて汚れてて、表情が無くて、酷く衰弱してた。
病院には連れてったけど、仔猫の体力次第だって状態だった。
ずっと看ていたいけど、そうもいかないから
どうか頼むと近藤さんに頭を下げられて、こいつの面倒みてたんだっけ。
それが、こんなにでかくなるなんてなぁ。
俺よりもでかくなりやがって。
「何?」
きょとんとした顔は、かすかにあの頃の面影がある。
近寄って、ぎゅっと頬を抓ってみる。
意味は無いけど。
「いてて!な、何すんの・・・。」
そういや、こいつは珍しい猫なんだった。
それも興味を引くんだろうか。
こうして見る限りじゃ、そのへんの猫と変わらないのに。
変わってるといえば、こいつの律儀な性格か。
ずっとひとりだったせいか、仔猫が大好きで、俺よりも可愛がってる。
気持ちは優しくて、でも、喧嘩には負けたことがないくらい強くて。
・・・・・・やっぱ、モテるんだよな。
ああ、面白くねえ。
のほほんとした総司の顔が、ムカつく。
「ガキと遊ばなくていいのかよ。」
「うん、でも、今はのぶさんが遊んでくれてるから・・・・」
「おめえも行けよ。」
「ここにいてもいい?」
「何でだよ。」
「ここにいたい。」
八つ当たりしたのに、総司は何だか嬉しそうだ。
「歳さんの傍が、一番いい。」
「はっ、恥かしいこと言うな!馬鹿!」
どうかしてんじゃねえのか、こいつ。
のぶ姉に聞かれたら、またからかわれるだろ!
顔は熱いし、心臓は煩い。
毛布を被って寝てしまえ。
あっ、くっつくな、バカ。
俺は寝るんだ。
「かーにゃ!」
どすん、と。
突然、毛布の上から衝撃が来た。
「てつもねんねする!」
「はるも!」
思い切りプレスされて、ぐええっとカエルみたいな声が出た。
仔猫と言えど、二匹いっぺんは辛い。
だけど、頭まで被ったのが災いして、起き上がることができない。
「こら、だめだよ。ママが苦しいよ。」
慌てて総司が子供を取り押さえる。
その隙に、一気に毛布を撥ね退けた。
「こぉのガキども〜!!!」
きゃーっと二匹が一目散に逃げ出した。
ちくしょう、ろくなことしやがらねえ。
「大丈夫?」
「くそ、あいつら〜!」
今度やりやがったら、ゲンコかケツ叩きの刑だ。
はぁ。
正月から落ち着かないぜ。
「子供は元気だよね。」
「他人事みてえに言うなっての。」
「ごめん、でも、賑やかでいいよ。」
「俺にとっては、毎日うんざりだぜ。」
どこまでガキに甘いんだか。
でも、俺が総司の分まで怒ってるから、丁度いいのかも。
飴と鞭ってやつだな。
「歳さん、ありがとう。」
「は?」
「約束、守ってくれて。」
いきなり何言い出すんだ?
約束?
何だそれ?
「わかんないならいいよ。」
・・・・・変な奴。
怪訝な顔していると、総司が寄ってきて、ぴったりと体を摺り寄せる。
慌てて離れようとしたけれど、総司の幸せそうな顔見てたら、何も言えなくなった。
約束って、なんだっけ。
思い出せない。
「眠いんでしょ。俺が見てるから寝てもいいよ。」
総司の指が、優しく背中を撫でている。
背中から感じる視線が気になったけど、それでも突き放せなかった。
それどころか、総司が喜んでるなら、どうでもいいか思い始めた。
優しい総司の手は、出会った頃とは違いすぎる。
あったかくて、おおきい。
やべえ。
本気で、眠くなってきた・・・・。
人間には、寝正月って言葉もあるくらいだから、眠ってもいいだろう。
少し眠って、起きたら、約束のこと、聞いてみようか。
そんなことを考えながら、目を閉じた。
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